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独禁法よもやま話 第7回です。

「アメリカの垂直合併ガイドライン」

キョウ子さん

 アメリカで、垂直合併ガイドラインが出されたと聞きました。

どっきん先生

 2020年1月に、アメリカの司法省と連邦取引委員会が連名で垂直合併ガイドラインの案を公表し、パブリック・コメントを行いました。その結果を踏まえて、6月に成案が公表されました。垂直合併の取扱いについて、アメリカでは、1984年に司法省の合併ガイドラインの一部として、非水平合併ガイドラインが出されていましたが、その後の運用実績や理論の発展を取り入れて、今回大幅に書き換えられました。
 なお、水平合併ガイドラインは、2010年に司法省と連邦取引委員会との連名で作成されています。
 アメリカでは、合併審査などの反トラスト法の執行を行う機関が、司法省と連邦取引委員会と2つありますので、その両者が共同でガイドラインを公表したということは、同じ考え方に従って審査が行われることになりますから、企業にとっては安心感が高まると思います。
 なお、ここで言う「合併」には、法律上の合併だけではなく、事業譲渡や株式取得なども含まれます。
キョウ子さん
 「垂直」とか「水平」とかいうのは、どういうことでしょうか。

どっきん先生

 同種の事業を営み競争関係にある企業同士の合併を「水平合併」と言います。そして、このガイドラインでは、同じサプライチェーン内の異なる取引段階にあって、取引関係にある企業の間の合併を「垂直合併」と言っています。例えば、川上のメーカーが川下の流通業者を買収する場合のほか、スーパーマーケットが配送を行える運送業者を買収する場合や、半導体メーカーがソフトウェア・メーカーを傘下に収める場合などが、これに当てはまります。
 ただし、別のサプライチェーンにあって取引段階が異なる企業との合併や電動バイクのモーターと電池など補完関係にある商品・サービスを提供する企業同士の合併など、「同じサプライチェーン内」ではない企業同士の合併にも適用されるとも言っています。
 通常、水平合併でも垂直合併でもないものは「混合合併」と言われるのですが、日本のガイドラインでは「混合」に当たるとされているものが、アメリカの垂直合併ガイドラインの適用範囲に含まれているように思われます。
 また、合併当事者が取り扱う商品・サービスの組合せによっては、一つの統合事案の中で「水平合併」に当たる部分と「垂直合併」にあたる部分が現れることがあります。その場合には、その商品・サービスごとに、両者の関係が水平的なものか垂直的なものかを判断して、それぞれに合った考え方を適用することになります。
キョウ子さん
 垂直合併に関心が集まっているようですが、何か事情があるのでしょうか。

どっきん先生

 かつては、競争当局の間で、競争者の数を直接減らすことになる水平合併に対する関心が高いのに比べ、垂直合併や混合合併は、競争者の数を減らすものではなく、また、取引費用の削減やシナジー効果といった合併のメリットが発生しやすいと見られて、競争法上問題となる可能性は小さいと考えられていました。
 しかし、ここ10年くらいの間に、通信企業、IT企業などによる垂直型や混合型の統合に関して、問題を指摘する事例や、統合を認めたのは誤りだったのではないかと批判される事例がみられましたので、こうした分野を中心に、垂直合併・混合合併に対する懸念が高まっていることが背景にあると考えられます。
 また、垂直合併や混合合併がどういう形で競争に影響を及ぼすのかに対する理論的整理が進んできたという理由もあります。ガイドラインでは、競争に悪影響を及ぼす要因として、原材料価格を引き上げて川下のライバル企業のコストを引き上げるような行動や川上のライバル企業の製品の取り扱わないことで流通経路の獲得を困難にする行動などをとることができるインセンティブと能力などを挙げています。
キョウ子さん
 今後、垂直合併・混合合併に対する運用が強化され、認められにくくなるのでしょうか。

どっきん先生

 今回の垂直合併ガイドライン改正の目的は、産業界、反トラスト弁護士、裁判所に、当局が垂直合併を審査する際の考え方の枠組みを提供し、合併審査の透明性を高めることと言っていますので、今回の改正で垂直合併・混合合併が認められにくくなるとは必ずしも言えないでしょう。ガイドラインでも、効率性向上などプラスの効果との比較考量を慎重に行う姿勢がうかがわれます。
 しかし、例えば、IT産業や医薬品業界などで行われる開発時間を節約するためのスタートアップ企業の買収が、将来の競争相手になりそうな企業を若芽のうちに買い取ってしまい将来の競争を排除しようとするKiller Acquisitionなのではないかといった、現在は競争関係にない企業間の統合に対する関心が高まっています。そして、連邦取引委員会は、昨年、Technology Task Forceを設けて、FacebookによるInstagramやWhatsAppの買収など巨大IT企業の過去の買収案件について、買収当時に問題としなかった処理の検証作業を行っています。こうした案件の中には、垂直合併も含まれていますので、検証作業の結果がどうなるのかが注目されています。
 企業の戦略として、垂直合併や混合合併を検討する際には、生産性の向上、品質の改善、新製品・サービスの開発などの合併によって生じる効率性がどのように発揮できるのかを具体的に説明できるようにしておく必要があるでしょう。

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