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独禁法よもやま話(第15回)

第15回「バイデン大統領による米国経済の競争促進大統領令」

キョウ子さん
 米国のバイデン大統領が、米国経済の競争促進について、大統領令に署名したようですね。
どっきん先生
 バイデン大統領は、7月9日、米国経済の競争促進に関する大統領令(Executive Order on Promoting Competition in the American Economy)に署名しました。この大統領令は、連邦政府機関に対する72項目の命令で構成されており、政府一丸となって、米国経済での競争促進を図っていこうとするものです。
 最近の市場集中などといった、米国経済の成長とダイナミズムを制約し、質の高い雇用の創出を損い、米国経済の世界での地位を脅かしている危険な傾向を逆転するため、今、行動しなければならないというのが基本的なスタンスです。
 とくに、労働市場、農業市場、インターネットプラットフォーム市場、医療市場(保険、病院、処方箋医薬品市場を含む。)、修理市場、そして海外でのカルテルにより直接影響を受ける米国市場での産業の過度の集中、市場力の濫用、独占の弊害と戦うために反トラスト法を運用することが、バイデン政権の方針であることをこの大統領令は確認するものであるとしています。
 また、各機関による協力の必要性が説かれ、各機関での判断に当たっては、司法省やFTCの判断基準が採用されるべきであるとしています。
 さらに、各機関での取組の調整、促進等のため、ホワイトハウス競争評議会を設立することとし、各連邦機関の長官がメンバーとなっています。評議員会は半年単位で開催されることとされていますが、大統領令から30日以内には、各機関の担当責任者を指定することとされています。
キョウ子さん
 大統領令では、競争当局に対しては、どのような命令が出ているのですか。
どっきん先生
 まず、反トラスト法については、司法省、FTC、その他クレイトン法を運用する機関が、反トラスト法を公正かつ積極的に運用することが奨励されるとし、また、司法省とFTCは、産業集中への対処のために水平及び垂直合併ガイドラインを検討し、改正すべきかどうか検討することが奨励されています。
 特許に関しては、司法長官と商務長官が、特許権の濫用が行われないよう、知的財産法と反トラスト法の関係を見直すべきかどうか検討することが奨励されています。
 金融に関しては、司法長官が連邦準備制度理事会議長等と協議して、米国民が金融機関の選択肢をもち、過度の市場力から保護されるよう、180日以内に、現在の慣行を見直し、金融機関の合併の監視の活性化の計画を採用することが奨励されています。
 労働者に関しては、労働者を賃金のカルテルから保護するために、司法長官とFTC委員長は、2016年10月の人材ガイドラインを見直すべきか検討することが奨励されています。また、転職を不当に制限する可能性のある協定に対処するために、FTCは、FTC法に基づく規則権限を行使することを検討することが奨励されています。
 FTC法に基づく規則制定権限については、さらに、競争や消費者の自律性、プライバシーを損なう可能性のあるデータ収集・監視慣行、農家の修理に関する製造業者による不公正な慣行、処方医薬品におけるジェネリック医薬品メーカー等の参入を遅延させる慣行、主要なインターネット小売市場における不公正慣行、不当な職業上のライセンス制限、不動産の仲介等の際の不当な抱き合わせや排他的慣行などについても、規則の制定を検討することが奨励されるとしています。
キョウ子さん
 競争当局以外に対しても、命令は出されているのですか。
どっきん先生
 農務長官、財務長官、連邦通信委員会委員長、運輸長官、陸上運輸委員会委員長、連邦海事委員会委員長、保険福祉長官、食品医薬品委員、商務長官、国防長官、消費者金融保護局長及び管理予算局長に対して、それぞれの分野での競争促進の対策の検討が奨励されています。
キョウ子さん
 そのうち、IT関係ではどのような内容のものが含まれているのですか。
どっきん先生
 連邦通信委員会委員長に対し、2017年に撤廃されたネット中立性規則と同様の無差別ルールの採用を検討すること、エンドユーザーに対する不当な早期解約手数料の廃止を検討すること、ブロードバンドサービスプロバイダーが消費者に料金、パフォーマンス、ネットワーク慣行について明確、簡潔、正確な情報を提供する表示規則の制定の開始を検討すること、家主とインターネットプロバイダーがテナントのプロバイダー選択を阻害することのないよう規則作成を行うことを検討することなどが含まれています。
 いずれにせよ、バイデン大統領の競争政策に対する積極的な姿勢がうかがわれるものといえます。
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