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横田正俊記念賞 第7回 受賞論文 (土佐 和生 氏)

論題:「ドイツ電気通信事業法における規制改革と競争政策 (上下) 」

土佐 和生 氏 (香川大学法学部講師)
(香川法学10-3・4 [1991.1.10] 、同11-1[1990.4.10])

論文要旨

 本論文は、近年のドイツ電気通信事業における規制緩和政策の新たな展開とこれに対する競争制限禁止法の適用問題を、実証的かつ比較法的観点から明らかにしようとするものである。電気通信事業における規制緩和の経済法研究の課題は、一方で既存の規制枠組の妥当性を問い直すことを必要とするが、他方で既存の規制を解かれた独占的事業体によるあり得べき競争制限行為に対する手当をどのように考えるかも求めるからである。また、ドイツの電気通信事業はその沿革において日本と類似する面があり、アメリカと並んで比較法分析の際に他方の極(モデル)を提供し得るという点に対象選択の理由がある。
 さて、ドイツの電気通信改革は1989年6月8日付郵政構造法(Poststruktur gesetz;PostStrktG)を通じて確定されたが、規制上の基本的考え方は三つの構成部分に分けられる。すなわち、すべての電気通信サービスを伝送する基幹的通信網としてのネットワークは、原則的に依然として公企業であるDBPテレコムの独占とされる(なおDBPの民営化はなされていない)。この点は後の音声電話独占とともにフランス等と共通し、アメリカ、日本、イギリス等との比較においてヨーロッパの大陸的特徴をなしている。次に、このネットワークの上にあって提供される各種の電気通信サービスの提供は、DBPテレコムによる音声電話サービスの独占(独占的サービス)を除き、参入規制が撤廃され競争が導入される(自由サービス)。ただし義務的サービスという特別のカテゴリーを別に立て、ここではDBPテレコムだけにサービス提供義務が課せられる。最後に、端末機器の製造、販売に関しては行政規制が排除され基本的に自由な競争が期待されている。
 次に、1989年12月22日付の競争制限禁止法第五次改正以降、当該事業に対する競争政策的対応に若干の変化がある。この改正でDBPの適用除外を定めていた旧99条一項が削除されたことに伴い、DBPテレコム以外に競争者の存在しない独占的サービスは依然として完全な適用除外ではあるが、その他の競争的サービス(義務的サービスと自由サービス)および端末機器の製造、販売については競争制限禁止法の適用可能性が出てきた。もっとも、義務的サービスに関してはなお行政規制の比重が高く、競争制限禁止法が直ちに適用されるわけではなく連邦郵政大臣との協議、調整が予定されている。
 最後に、ドイツの今回の改革は国内的要因だけでは説明できず、ECからの自由化圧力が加わっている。規制緩和を目指すECの電気通信政策は委員会の主導の下、電気通信サービスと端末機器の分野を中心に精力的に進められており、ドイツの改革もこのECレベルでの枠組に沿おうとするものといえる。ECの動向は委員会と各加盟国との間の軋蝶もあり必ずしも一路平坦とはいえないが、規制緩和の革本線は実現されて行くと思われる。
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