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横田正俊記念賞 第13回 受賞論文 (白石 忠志 氏)

論題:「独禁法講義」

白石 忠志氏 (東京大学助教授)
(平成9年10月 有斐閣)

論文要旨

 拙著『独禁法講義』は,「競争政策と法」を理解し議論していくための手段として(本書エピローグ),独禁法に的を絞って書いた教科書である。 
 ただ,教科書という形態ではあるものの,私自身の研究成果を随所に織り込んでおり,それらの暫定的集約ともなっている。その意味で本書は,初学者だけを対象としているわけではなく,生硬なきらいのある私の諸論文の内容や位置づけを研究者・実務家に若干なりとも受け止めていただくための,ひとつの契機ともなったかもしれない。
 本書は,「このような行為は独禁法に違反しますか?」という,独禁法について最も多く発せられる形態の問いを想定しながら,合理的な専門家がそのような問いに答える際にとるであろう思考手順にあわせた体系化を試みた。したがって,不公正な取引方法,不当な取引制限の順で解説し,現行法の実務ではこれらの取りこぼしの受け皿として機能することが多い私的独占を,最後に取り上げている。企業結合の規制については,「複数事業者がからんで独禁法違反とされるような行為と同等のことが,その複数事業者が結合することによって簡単におこなわれるようになるかどうか」(本書100頁)に着目する規制だとの認識のもとに,上記3類型の単純な応用として触れるにとどめている。多くの独禁法教科書では,独禁法の条文の順序にならって私的独占が最初に解説され,次に企業結合規制が,私的独占の予防規定と位置づけられたうえで登場することが多い点に鑑みると,上記の体系は本書の顕著な特徴の1つということになろう。
  なお,それらの前提として本書では,独禁法の事例問題を与えられた場合に「そこで問題となるのはどのような競争か(問題となる市場は何か)」を明確にすることの重要性を一貫して説いた。もちろん,このような枠組みでは捉えきれない問題もないわけではないだろうが,議論の「ものさし」(参照,藤田宙靖『第三版行政法I(総論)改訂版』(青林書院,1995年)5-6頁)を設定することは体系化のために不可欠の作業であろう(本書9-10頁)。例外的な諸問題を検討することも重要であるが,それと同時に,原則的な諸問題について他の法分野に比肩し得るほどの論理性を勝ち取ることもまた,独禁法専門家の急務であるように思われる。
 今後の課題としては,無数に存在する欠点の改善もさることながら,より大きな点として,上記3大違反類型に拘泥しない体系化の模索があろう。たとえば,不公正な取引方法の目次(本書34頁)に類した枠組みで,独禁法違反要件すべてを説明する試みである。本書では,法律に規定された3類型の存在をあくまで前提としながら,運用の現実に即してそれらの相互関係を明らかにするスタイルを採った。しかし,今後において,あるいは,本書よりも高いレベルにある中級以上の読者向けの体系書においては,3類型に囚われず,より自由な体系化の可能性も許されてよいだろう。
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