本文へ移動

横田正俊記念賞 第13回 受賞論文 (宮井 雅明 氏)

論題:「反トラスト法における市場力の研究 (一) - (四・完)」

宮井 雅明 氏 (立命館大学助教授)
(法政研究 第1巻1号、第1巻2・3・4号-第2巻2号 [平成8年9月-同9年11月] )

論文要旨

 今日新たな転換期に差しかかった我が国独占禁止政策は,多かれ少なかれ,独占禁止法ないし競争法の国際的「ハーモナイゼーション」を意識せざるを得なくなっている。問題は「ハーモナイゼーション」論議の内実である。表面的な比較法研究に基づき,「ハーモナイゼーション」の名の下に特定国の独占禁止(競争)法制を絶対的尺度として我が国の独占禁止法制のあり方を論ずることの危険性が自覚されねばならない。今こそ,歴史的背景の違いをも踏まえた冷静な比較法研究が求められている。本論文は,かような問題意識に基づき,反トラスト法における市場力概念の分析を通じてアメリカ反トラスト政策の変遷と現状を論理内在的に解明することを目的とする。
 まず,本論文は,判例法における「市場力」の位置づけを確認するとともに,市場力理論における問題の所在を次のように把握する。すなわち,反トラスト法の立法過程において示された諸価値,特に,いわゆるポピュリスト的価値観と経済発展の方便として大企業の存在を肯定する価値観との均衡を図り,以って反トラスト法を実効的な企業活動のルールとして定着させる必要性から,アメリカでは,1930年代後半から「反トラスト法の経済政策化」が推し進められてきた。市場力理論もまた,「反トラスト法の経済政策化」を促したのと同じ問題意識に根差しており,そのことが市場力をめぐる議論の枠組みと性格を規定しているというのが本論文の見方である。
 次に,本論文は,今日の市場力理論の基礎を築いたシカゴ学派の市場力理論の特徴を,ハーバード学派との比較において明らかにする。特に,シカゴ学派市場力理論の最大の特徴を,静態的で非現実的な市場観を理論構築の前提とする点に見出し,そのことが,市場力の過小評価の傾向等,具体的な問題点として顕在化していることを指摘する。さらに,本論文は,シカゴ学派の市場力理論の修正を試みる政策提言を検討し,これをも踏まえて,最後に,市場力理論の現段階における議論の対抗軸を整理している。
 本論文は,市場力理論の成果と限界とを我が国独占禁止法の解釈・運用にいかに活かすべきかにっいても触れているが,ここでは論点を示すにとどまり,本格的な検討は後日の課題とされた。反トラスト法におけるポピュリスト的価値観の起源の問題や反トラスト法以外の法分野におけるポピュリスト的価値観の反映の仕方,「ポスト・シカゴ」の反トラスト政策論の動向とその判例法理への浸透の度合い等にっいても,今後更に詳細な調査・検討が必要である。
TOPへ戻る