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横田正俊記念賞 第21回 受賞論文 (池田 千鶴 氏)

論題:「競争法における合併規制の目的と根拠(1)~(3完)」

池田 千鶴 氏 (神戸大学大学院法学研究科助教授)
(神戸法学雑誌第54巻第2号~第54巻第4号 2004年9月,12月、2005年3月)

論文要旨

本稿は、垂直的制限が反競争的効果を有するか否かについて論じたアメリカの学説について検討するものである。シルベニア判決(1977年)以降に書かれた論文を検討の対象とし、反トラスト法の目的として経済的目的を中心に据える学説について分析を行った。学説は、垂直的制限は基本的に競争促進的であるとするもの(只乗理論派と名付ける)と垂直的制限には反競争的なものが多いとするもの(反只乗理論派と名付ける)に分かれる。ともに経済的目的を重視する立場をとりながら、このような見解の違いが生じるのは何故か。反トラスト法の目的に関する考え方と、垂直的制限の経済的効果に関する認識に着目し、これらが、垂直的制限が反競争的効果を有するか否かの評価にいかなる影響を与えているかについて検討を行った。
 只乗理論派に属する学説は、市場における資源配分の効率性を高めることを反トラスト法の唯一のまたは最も重要な目的であると考えるものである。垂直的制限の経済的効果については、市場の不完全性(完全競争モデルと現実市場の乖離)は小さいという認識に基づき、只乗理論を、広い範囲の垂直的制限の説明に妥当するものとして採用する。同理論は垂直的制限が配分的効率性を高めることを説明するものであることから、垂直的制限は基本的に競争促進的であるという結論を導く。
 これに対して反只乗理論派に含まれる諸学説は、反トラスト法の目的を、複数の経済的目的から成るものと考える。この集団に分類される論者の議論は統一された形を持っているわけではないが、反トラスト法の目的と考えるものの中で主なものは、①配分的効率性を高めること、②消費者利益の保護および③動態効率性を高めることである。配分的効率性には特別な地位を与えない。垂直的制限の経済的効果については、市場の不完全性は大きいという考え方に基づいている。このような立場から、只乗理論の問題点を指摘し、只乗理論はごく限られた垂直的制限に妥当するにすぎないことを力説する。同時に、垂直的制限から反トラスト法の目的に反する経済的効果が生じることを示す理論を提示する。
 本稿は、上記両派に属する学説を個々に検討した上で比較を行い、結論として、只乗理論派と反只乗理論派の違いを生み出す原因としてより重要なのは、反トラスト法の目的に関する考え方ではなく、市場の不完全性に関する考え方であることを明らかにした。
 日本法研究との関連については、簡略な記述にとどめた。論文冒頭で、本研究を始めるに至った問題関心が、我が国独禁法における垂直的制限規制の違法性判断に、規制により生じる社会的厚生の変化を取り入れるべきか否かにあることを述べ、論文の最後に、市場の不完全性は大きいと考えるという筆者の立場を明らかにした上で、今後の研究課題について記した。
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