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横田正俊記念賞 第27回 受賞論文 (齊藤 高広 氏)

論題:「EU競争法における情報交換活動の規制 (一)~(三)完」

齊藤 高広 氏 (金沢大学人間社会研究域法学系准教授)
(法学新報 (一)117巻5・6号(2011)、(二)117巻9・10号(2011)、(三)118巻1・2号(2011))

論文要旨

 本論文は、EU競争法における情報交換活動規制の変遷を辿り、その規制法理を明らかにすることで、わが国における共同行為規制の課題点を示すものである。具体的には、EU競争法における先例であるUKトラクター事件を中軸として、情報交換活動規制の生成過程を辿り、判断枠組み・違法性判断基準・考慮要因等の規制法理を分析した上で、わが国では、市場の構造に由来する不可避的な行動と考えられている現象のなかから情報交換活動における人為的なメカニズムを見出し、寡占的な均衡状態を改善する手法を模索しようとするものである。
 競争法が共同行為を違法とする場合、共同性を示す何らかの結びつきが必要であるところ、わが国では「意思の連絡」という形で、その立証方法の確立に腐心してきた。欧米競争法も、共同性を示す「合意」を認定しなければならないが、価格引上げなどの競争制限行為に関わる具体的な「合意」を立証するのではなく、市場の構造と交換される情報の種類を考慮要因として、情報交換活動それ自体を違法行為類型とする手法も採っている。このような規制手法は、共同行為規制の主流ではないものの、協調的行動や競争回避的行動の抑止を期待することができる。
 アメリカ反トラスト法における情報交換活動規制の紹介および検討については、わが国においても、すでにいくつかある。他方、EU競争法については、UKトラクター事件判決が示した規制法理がある程度定着し、2011年施行の水平的協定ガイドラインが情報交換活動を違法類型とする方針を明らかにしているものの、必ずしも網羅的な形で検討が加えられてこなかった。そこで、以下の叙述にしたがって、EU競争法における情報交換活動規制を検討したのが、本論文である。
 前半部分では、(一)ローマ条約施行後から1970年代中葉における共同行為規制の判断基準と指導原理の形成過程を検討し、(二)情報交換活動それ自体を違法行為とする1970年代後半からUKトラクター事件以前における判決と決定を分析している。続く中心部分では、(三)UKトラクター事件を仔細に分析し、情報交換活動の違法性判断基準と競争制限効果の判断方法について検討し、(四・五)欧州共同体および加盟国におけるUKトラクター事件法理の展開を考察している。後半部分では、(六)EU競争法における適用免除の事例を検討し、情報交換活動の競争促進効果を考察している。最後に、(七)わが国における情報交換活動規制の現状を検討し、EU競争法の展開から得られた示唆をもとに、合意の認定、競争の実質的制限の認定、事後的措置のあり方について、独占禁止法上の課題点を示している。
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