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横田正俊記念賞 第30回 受賞論文 (渕川 和彦 氏)

論題:「買手市場支配力規制における違法性判断基準―米国における展開を中心として―」

渕川 和彦 氏  (山口大学経済学部専任講師)
(日本経済法学会年報第35号通巻57号、2014年)に至る買手市場支配力規制に関する一連の研究業績

論文要旨

 買手側の市場支配力(以下「買手市場支配力」という。)の問題は、英国、OECD、EU、そして米国などにおいて取り上げられている。特に昨今では、輸送手段や交通網の発達、店舗における販売情報の集約などに伴い大型小売業が大きな交渉力を有するに至り、競争に有意な弊害をもたらしている。本論文は、買手市場支配力規制の判例・学説が蓄積している米国反トラスト法における買手市場支配力規制の検討を通じてその違法性判断基準を示し、我が国独禁法における買手市場支配力規制の課題を明らかにするものである。
 我が国独禁法上、買手市場支配力は、主として私的独占、不当な取引制限、そして事業者団体規制の問題となる。しかし、我が国では、買手の行為は主に購買力の濫用の問題として取り扱われ、優越的地位の濫用として規制されてきた。優越的地位の濫用は、主に取引当事者間の地位の格差から生じる不公正な取引に着目した行為類型になっており、必ずしも取引当事者以外の影響や、競争への影響について取り締まるものではない。平成21年独禁法改正では、優越的地位の濫用に課徴金が導入された。一方、私的独占に対する課徴金は、支配型・排除型を問わず、供給者、つまり売手の行為に限定して課される。このため、我が国では、現行法上、買手の私的独占に課徴金が課されないのに対して、同様の違反行為を買手による優越的地位の濫用と構成できる場合には課徴金を課すことが可能である。その意味で、買手の私的独占よりも買手の優越的地位の濫用として構成する方がエンフォースメント上強いという「逆転現象」が生じることが懸念される。買手市場支配力の問題は反競争効果を生じるものであり、共同行為規制に限らず、単独行為規制についても「競争の実質的制限」の問題として捉えるべきである。
 本論文は以上の問題点を指摘した上で、米国反トラスト法における買手市場支配力規制の検討として、買手の単独行為規制、買手間の共同行為規制、そして、買手主導の協調行動規制について考察した。検討の結果、2007年のウェイヤーハウザー事件連邦最高裁判決では、買手市場支配力と売手市場支配力は、原則として同様の違法性判断基準にて規制すべきとしていること、1948年のマンデビル事件連邦最高裁判決では、買手間のハード・コア・カルテルは、売手・買手の区別なく原則的に違法であるとしており、先例拘束性が維持されていることを明らかにした。
 また、本論文は、買手市場支配力規制と売手市場支配力規制の違いが、反競争効果が一見して明らかではない単独行為規制や非ハード・コア・カルテル規制の検討対象市場において現れることを示した。つまり、買手間の非ハード・コア・カルテルの規制において、反競争効果の分析が上流市場のみでは不十分な場合には、上流市場での買手市場支配力の行使が、下流市場での売手市場支配力に繋がっているかを検討することが求められる。他方、価格・数量に関する「あからさまな制限」が行われる買手間のハード・コア・カルテルの場合、反競争効果が明らかなため、上流市場における反競争行為の検討で足りることとなる。
 買手主導の協調行動については、我が国の現行独禁法上、私的独占として規制した場合には課徴金が課されず過小規制のおそれがある。他方、これを不当な取引制限として規制した場合には、買手により一方的拘束を受けた売手を規制するだけでなく、このような売手に課徴金まで課される可能性があるため過剰規制のおそれがある。我が国では、特に買手間の非ハード・コア・カルテル及び買手主導の協調行動規制に関する判例・学説の蓄積が乏しく課題が残されている。
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