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独禁法よもやま話(第21回)

第21回「不正競争防止法と独占禁止法」

キョウ子さん
 最近、転職前の会社の営業秘密に当たるデータを持ち出したことなどが不正競争防止法違反であるとして報道等で話題になっています。不正競争防止法という法律名からすると、独占禁止法と似た役割を持っているような気がするのですが、両法律はどのような関係にあるのですか。
どっきん先生
 法律の目的という点からみると、不正競争防止法の直接の目的は、「事業者間の公正な競争」と、これに関する「国際約束の的確な実施の確保」にあります。一方、独占禁止法の直接の目的は、「公正かつ自由な競争の促進」にありますので、公正な競争を確保するという点では共通性がありますね。
 一方、独占禁止法では自由な競争の促進も目的にしていますから、カルテルや談合といった不当な取引制限行為は、独占禁止法に固有な規制と言えるでしょう。
キョウ子さん
 なるほど、目的も一部共通しているのですね。ところで、独占禁止法については公正取引委員会が法執行をしていますが、不正競争防止法の法執行の担い手は誰ですか。
どっきん先生
 不正競争防止法においては、独占禁止法のように行政機関が法執行を行う仕組みではなく、民事的規律(差止請求や損害賠償請求など)と刑事罰が科される仕組みとなっています。例えば、差止請求について言えば、不正競争によって営業上の利益を侵害される(又はおそれがある)者は、その営業上の利益を侵害する(又はおそれがある)者に対し、差止請求をすることができるとされています。
 独占禁止法においても、一定の要件を満たす事業者は、不公正な取引方法について差止請求をすることができますが、行政機関が法執行の担い手となっているかどうかという点が両法律の規制手段の大きな相違点と言えるでしょう。
キョウ子さん
 確かにそうですね。ところで、具体的な禁止行為は、それぞれの法律においてどうなっているのですか。
どっきん先生
 不正競争防止法は、不正競争行為が具体的に列挙されており、例えば、先ほどの営業秘密の侵害のほか、他人の著名なブランド商品の表示を自己の表示として使用するような著名表示冒用行為、商品等の広告においてその原産地や品質、内容等について誤認を与えるような表示を行う誤認惹起行為、競争相手の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知・流布する信用毀損行為などがあります。
 独占禁止法については、先ほどの不当な取引制限のほか、私的独占、不公正な取引方法などがあります。
キョウ子さん
 それぞれの法律が禁止する行為に重複するものはあるのでしょうか。
どっきん先生
 そうですね。個別のケースに応じて判断する必要があると思いますが、不正競争防止法が禁止する行為の中には、独占禁止法の不公正な取引方法に該当し得るものがあります。例えば、不正競争防止法が禁止する誤認惹起行為については、不公正な取引方法の一類型である欺瞞的顧客誘引(一般指定8項)に該当する場合が考えられます。もっとも、この欺瞞的顧客誘引のうち、消費者を誤認させる場合には景品表示法の不当表示に該当する場合も考えられますね。
 また、信用毀損行為については、取引妨害(一般指定14項)に該当する場合が考えられます。さらに、営業秘密の侵害行為については、事業者が競争業者の役員等に営業秘密を漏えいさせるような場合には、競争会社に対する内部干渉(15項)に該当することも考えられます。
キョウ子さん
 例えば、これまでの独占禁止法違反事件の中で、不正競争防止法にも違反すると考えられるようなものはあったのでしょうか。
どっきん先生
 公表事件の中で明らかになったものはあまりないと思いますが、信用毀損行為に関するものがあります。この事件は、特許権者の委託を受けて標準必須特許の管理等を行っている事業者が、当該特許のライセンス交渉をしていた事業者の取引先に対し、特許権の侵害行為について差止請求権を有している旨の通知書を送付する(本件告知)などしていたことについて、公正取引委員会が不公正な取引方法(取引妨害)に該当し、独占禁止法に違反すると判断したものです。ただし、違反行為が繰り返し行われていないことや競争回復の状況などを見て排除措置命令を行うことなく審査を終了しています。
 一方、このライセンス交渉をしていた事業者が本件告知の差止め等を求めて訴訟を提起したところ、本件告知は虚偽の事実を告知したものであり、不正競争防止法の不正競争に該当する旨の判決が行われました。
キョウ子さん
 なるほど。事案によっては、不正競争防止法の信用毀損行為と独占禁止法の取引妨害が重なる場合もあるのですね。
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