第12回 「独占禁止法と企業グループコンプライアンス」
昨年(2020年)12月25日から、改正独占禁止法が施行されたということですが、企業グループとして、コンプライアンス上、気をつけるべき点はありますか。
これまでは、独占禁止法違反を行った場合に課される課徴金の算定のベースとなる売上高は、その違反事業者自体の売上高だけでした。
今回の改正により、ある事業者が違反をしたときに、一定の場合には、その事業者の100%子会社などの売上高や過去の違反歴が、課徴金の金額に影響を与えることとなりましたので、企業グループとして独占禁止法の遵守の必要性が高まっているといえます。
具体的には、どのような場合に、子会社などの売上高が考慮されるのですか。
これまでは、例えば、ある会社が違反行為を行っていた場合に、その会社が直接製造販売せず、グループ内の別会社が製造販売しているときには、違反行為を行っていた会社には違反行為の対象とされた商品の売上額がないので、公正取引委員会は課徴金を賦課することができませんでした。
しかし、これではカルテルがやり得ということになりますので、今回の改正により、例えば、販売価格カルテルであれば、違反事業者の完全子会社等(完全子会社だけでなく、完全親会社、又は完全親会社が同一である他の会社を含みます。)が、違反事業者から「指示を受け、又は情報を得た上で、当該指示又は情報に基づき当該商品又は役務を供給した」売上高について、違反事業者の課徴金算定の基礎に加えることとなりました。(第7条の2第1項第1号)
ここで、「指示を受け、又は情報を得た上で」というのは、違反事業者から価格カルテルを踏まえて値上げの指示を受けるような場合や、他の違反事業者も値上げを行う見込みであるといった情報を得ているような場合です。そのような指示などに基づいて完全子会社等がカルテル対象商品の販売を行っている場合には、当該完全子会社等は違反事業者の手足となってカルテルを実施しているといえます。
子会社などの違反歴が考慮されるというのは、具体的にはどういうことですか。
これまでは、調査開始日から遡り10年以内に課徴金納付命令等を受けたことがある場合の割増算定率(1.5倍)は、その事業者の違反歴のみにより適用されてきました。しかし、過去の事例を分析した上で、①昨今は企業グループ単位でのコンプライアンスが求められていること、②海外では、繰り返し違反に対する割増算定率は、企業グループ単位で適用されていること、③課徴金減免制度でも同一企業グループ内の複数の事業者による課徴金減免共同申請が認められていること等から、企業グループ単位で繰り返し違反の割増算定率を適用することとされたのです。
具体的には、繰り返し違反について次の場合にも割増算定率(1.5倍)を適用すると改正されました。
- 過去10年以内に完全子会社が課徴金納付命令等を受けたことがある場合には、親会社に対しても適用する(第7条の3第1項第2号)
- 過去10年以内に課徴金納付命令等を受けたことがある事業者と合併等をした事業者たる法人に対しても適用する(第7条の3第1項第3号)。
これまでよりも、企業グループ単位での売上や違反歴が課徴金を増額させるケースも増えるということですね。
したがって、親会社としてはグループ全体として、独占禁止法違反を起こさないように独禁法コンプライアンスの徹底を図るために、その遵守体制を確立して、役員・従業員教育や研修、内外の競争法の法制・執行状況の把握、マニュアルの見直し、定期的な監査などを図っていく必要があるでしょう。