第11回「企業の役員と独占禁止法」
リニア新幹線の談合についての刑事事件で有罪判決(2021年3月1日東京地裁)が出ましたが、談合を行っていたのは、企業の役員だったようですね。
この事件では、スーパーゼネコン4社の違反が問われましたが、副社長や常務といった企業の役員クラスの人が談合行為を行っていたとされています。
また、この事件だけでなく、最近でも、例えば、段ボールカルテル事件では、各社の役員あるいは幹部社員が出席する会合の場で、各社の値上げの方針を表明するなどして価格引上げを合意したとして、公正取引委員会は違反を認定しています(2021年2月8日審決)。
このように、まだまだ、価格カルテルや談合といった基本的な違反行為についても、企業の役員が関与していた事例がかなり見られます。
独占禁止法のコンプライアンスの必要性が言われているのに、なぜ、役員が関与した事例がまだ散見されるのでしょうか。
ひとつには、役員の中には、独占禁止法を正しく理解していない人がいるということがあります。単なる情報交換に過ぎないと思っていても、そのことを通じてお互いに他社の行動を予測して価格の値上げなどができるようになるのであれば、それは価格カルテルとされてしまいますが、そういった基本的なことが十分理解されていないといえるかもしれません。
また、役員は、企業の経営に直接的な責任を負うために、収益の確保のためのプレッシャーが大きく、利益につながると思ってカルテルなどに走ってしまうこともあるのかもしれません。
さらに、企業として他社との接触には注意を払っているとしても、役員の行動を事前にチェックしたり、事後的に細かく監査することが、社内的に容易ではないといった事情がある場合もあろうかと思います。
役員の人の自覚が必要ということでしょうか。
独占禁止法違反があった場合には、企業としては、高額の課徴金を支払わなければならず、1社で131億円もの課徴金を支払わなければならなかった海運カルテルの事例(2014年3月18日排除措置命令等)などがあります。さらに場合によっては取引先から巨額な損害賠償の請求を受けるなど、独占禁止法違反は、会社の収益に大きな影響を与えかねません。カルテルは、決して企業の利益にはなりません。
また、課徴金だけでなく罰金などの刑事罰がかかることもあります。企業であれば、最高で5億円の罰金、個人であれば、最高で5年の懲役又は500万円の罰金ということもあり得ます。それだけでなく、企業の代表者の場合には、自分が直接違法行為を行った場合だけでなく、違反の計画を知りながらその防止に必要な措置をとらなかったり、違反を知りながらその是正に必要な措置をとらなかった場合にも、500万円以下の罰金がかかることがあります。
さらに、役員が違反行為の予防などに十分な対策をとらなかったり、独占禁止法違反行為について公正取引委員会に自主申告しなかったことにより企業が課徴金を支払わなければならなくなって企業に損害を与えたとして、株主が役員を相手に株主代表訴訟を提起する事例もみられています。例えば光ファイバーケーブルカルテル事件では、最終的には和解になりましたが、それでも、住友電工の役員22名は5億2000万円の支払いを行うこととなりました(2014年5月7日)。
また、独占禁止法違反をすることにより、企業が社会的なレピュテーションリスクを負うことはもちろんですが、法令違反をした場合には、一定期間、叙勲の対象とはならないといわれています。
役員の人も独占禁止法を十分に理解する必要があるということですね。
過去最高の課徴金納付命令となったアスファルト合材事件(2019年7月30日排除措置命令等)では、公正取引委員会の委員長が、違反事業者の親会社であるスーパーゼンコン4社の社長に対して直接コンプライアンスの徹底を求めたと報道されていますから、今後は子会社の独禁法コンプライアンス徹底についても親会社の責任を問われる場合もあると思います。
独占禁止法のコンプライアンスを会社内部で徹底するためには、企業トップが役員、従業員に対して、コンプライアンスを徹底するようメッセージを発することが極めて重要です。また、何よりも企業グループ全体のコンプライアンス意識を効果的に高めていくためにも不可欠といえます。そのためにも、役員が研修などを通じて独占禁止法について十分理解することが必要です。