第10回「海外競争当局との協力」
企業の活動が国際化することによって、日本の企業の活動が外国の独占禁止法の運用機関から問題とされることも多くなっているようですね。
日本の企業の事業活動が、日本の国内だけでなく海外の市場にも影響を与えることが最近増えており、国際カルテルだけでなく合併などの企業結合が日本の公正取引委員会からだけでなく、海外の当局からも調査の対象とされるケースが増加しています。
そのような場合に、各国の当局の間が協力を行うことは、非常に有益なことですが、相手国の主権を侵害したりすることがないようにすることも必要になってきます。
このため、各国の政府間、あるいは当局間で、どのような協力を行うか、事前に合意しているケースが増えています。
現時点で、日本は、どこの国とどのような合意をしているのでしょうか。
2020年12月1日時点で発効しているものとしては、
1.政府間で取り交わしている独占禁止協力協定
米国、欧州共同体、カナダとの間の3つのもの
2.競争政策についての章を含んだ経済連携協定等(EPA、FTA)
シンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ASEAN、フィリピン、スイス、ベトナム、インド、ペルー、オーストラリア、モンゴル、TPP11,EUとの間の16のもの
3.当局との覚書・取決め
中国、シンガポール、カナダ、モンゴル、ケニア、オーストラリア、韓国、ブラジル、フィリピン、ベトナムとの間の10のもの(台湾のものを含めれば11のもの)
があります。
いずれも、当局間での協力を促進していくことを目的としているといえますが、細かくみていくと、情報交換についても、規定がないもの(チリ、インド)から、カナダ当局やオーストラリア当局との取決めのように、審査活動を含む執行活動を通じて違反被疑事業者などから入手した情報に関するものが織り込まれたいわゆる「第二世代」のものまで、様々な状況です。
また、独占禁止法を制定して間もない国との間では、それらの国に対して日本の公正取引委員会から研修の職員を派遣することなどを目的として、技術支援の規定が含まれていることが多いようです。
公正取引委員会のホームページに、それぞれの規定が掲載されています。
https://www.jftc.go.jp/kokusai/kokusaikyoutei/index.html
また、2020年12月1日時点では、まだ、国会での承認手続が終了しておらず、発効していませんが、すでに署名されたものとしては、日英包括的経済連携協定(2020年10月23日署名)と東アジア地域の包括的経済連携協定(RCEP)(2020年11月15日署名)があります。
「地域的な包括的経済連携協定(RCEP)」については、最近よく報道されていますが、どのような内容のものでしょうか。
RCEPは、ASEANの10カ国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)とそのFTAパートナーの5カ国(オーストラリア、中国、日本、ニュージーランド、韓国)の合計15カ国が、今年(2020年)11月15日に、署名した経済連携協定(EPA)で、世界の人口とGDPの3割を占めているとして注目されているものですが、その協定の中に、競争法についての部分があります。
そこでは、各締結国が
- 反競争的行為を禁止する競争法令を制定・維持、執行すること
- 国籍に基づく差別を行うことなく競争法を適用・執行すること
- 競争法令及びその運用に関する指針を公表すること
- 是正措置のための決定・命令及びそれに対する不服申立てに関する決定・命令の根拠を公表すること
- 制裁・是正措置に対する独立した審理・不服申立てを利用できることを確保すること
- 事案の取扱いにおける適時性が重要であることを認識すること
- 他の締結国の競争当局との間での協力(他国の利益に実質的な影響を及ぼしうる場合の通報、要請があった場合の討議、要請があった場合の情報交換、要請があった場合の執行活動における調整)の重要性を認識すること
- 情報の秘密性を保持すること
- 技術協力・能力開発活動の協力が共通の利益であることに合意すること
- 問題に対処するため協議を行うこと
などが規定されています。
今後、署名した各国で批准に向けた手続きが行われます。そして、署名15カ国のうち、ASEANの6カ国及びFTAパートナーの3カ国が批准した時点で協定が発効することになります。
RCEPの競争章の規定は、こちらをご覧ください。