第3回 「売り惜しみ・高価格販売と独占禁止法」
マスクなどのコロナ感染防止のための商品について、売り惜しみをしている行為や法外な高価格での販売を独占禁止法で規制できないのでしょうか?
独占禁止法は、売り手が、取引先(誰に販売するか)、取引条件(いくらでいくつ販売するか)などを自由に決められることを原則としています。ですから、売り手が、取引を行わない(例:在庫があっても売らない)、取引の数量を制限する(例:1家族1箱まで)、高値で販売するといったことを行っても、それだけで独占禁止法で規制することは難しいと思われます。むしろ、需要が供給を大幅に上回っている場合に価格が高くなることは、価格メカニズムが働いているからとも考えられます。通常、価格が高くなれば、これまで採算が合わないから製造しないと考えていたメーカーも採算がとれるようになるので、新規参入が起こると考えられます(例えば、マスクについても、電機メーカーなどが新たにマスクを生産するようになりました)。そうすれば、販売量も増えてきて品不足が緩和され、価格も落ち着いてくることになります。
しかし、高価格や品不足の背景に、売り手の競争をしない、させない、ゆがめるような行為がある場合には話が違います。
例えば、複数の売り手(メーカー、販売業者など)や売り手の団体が話し合って、販売価格を決めたり、生産数量・販売数量を低く抑えたり、販売先・販売方法を制限したりすれば、カルテルや不公正な取引方法(共同の取引拒絶など)に該当し、独占禁止法違反として問題になる可能性があります。
また、売り手が取引先、取引条件などを自由に決められるといっても、シェアが高いなど市場で有力な事業者が、競争者を排除したり、新規参入を妨害したりするするために、原材料の販売を拒否したり、原材料を高価格で販売したりする行為は、独占禁止法上問題となり得るものです(例:マスクの素材と製品としてのマスクの両方を製造販売する事業者が、マスクの製造業者に対してマスクの素材を採算が取れないような高い価格でしか販売しない)。
それでは、売り惜しみや法外な高値販売を規制することはできないのでしょうか。
物価の高騰時に商品の流通を直接規制する法律として、「国民生活安定緊急措置法」と「生活関連物資等の買占め及び売惜しみに対する緊急措置に関する法律」があります。これらの法律は、1970年代の石油ショック後の物価高騰に対応するために制定されたもので、商品などの販売価格や販売方法を規制したり、不足する商品などの売渡しを指示・命令したりすることができます。
これらの法律は、長年にわたり使われてこなかったのですが、今回の新型コロナウイルスの流行に際して、マスクなどをインターネット上で高額で転売する行為が横行したことへの対策として発動されることになりました。
具体的には、令和2年3月に国民生活安定緊急措置法の規制対象となる「生活関連物資等」として「衛生マスク」が指定され(関係省庁は、消費者庁、通商産業省、厚生労働省など)、企業や個人が小売店やネットショップなどから購入した衛生マスクを、購入したときの価格を上回る価格で転売することが禁止されています。また、5月には「消毒用アルコール製品」(高濃度の酒類や除菌シートも含まれます)が対象物資に追加されました。これらの商品について、上記のような転売行為を行うと、1年以下の懲役・100万円以下の罰金を科すとの罰則も規定されています。