第1回「芸能界と独占禁止法(1)」
最近、ジャニーズ事務所に対して公正取引委員会から注意がなされたとか、吉本興業の件に関連して、公正取引委員会が問題点を指摘したといったことがマスコミで大きく取り上げられました。そもそも、独禁法って何のためにあるのでしょうか。芸能界のどのような活動について、独禁法が適用されるのでしょうか。
そもそも独禁法は、消費者の利益を確保するとともに経済の発達を促進するために制定された法律で、企業が公正で自由な事業活動を行うことを求めています。これは、芸能事務所についても当てはまります。
ジャニーズ事務所は、事務所をやめたSMAPの元メンバーがテレビ番組に出演できないようにしていた疑いあるとして、公取は同事務所に対して「注意」を行ったと報道されました。「注意」とは、独占禁止法違反につながるおそれがある行為がみられた場合に、違反の未然防止の観点から、公取委から企業などに対して行われるものです。
ジャニーズ事務所が実際にテレビ局に何らかの圧力を加えていたような場合には、独占禁止法で禁止されている「不公正な取引方法」(「取引妨害」、「取引拒絶」、「排他条件付取引」、「拘束条件対取引」など)に当たらないか調査されます。具体的には、市場での競争を減らすおそれがあるかどうか、圧力の加え方が通常許容される態様か、その限度を著しく超えていないか(「手段の不当性」)、タレントを育てるのに要する費用回収の面から必要な制限の範囲・程度なのか等から検討されることとなろうかと思われます。
次に、吉本興業と所属するお笑い芸人との関係については、いわゆる闇営業問題に端を発して「契約書がなく、契約関係が不分明であること」が独禁法に抵触するのか、が問題になりそうです。
これは、個人の働き方が多様化している状況で個人として働きやすい環境を実現することを目的として公取委から「人材と競争政策に関する検討会報告書」が公表したばかりなので(2019年2月15日)、どのような場合に「優越的地位の濫用」と判断されるのかマスコミの関心を呼んだようです。吉本興業は事業者ですから、所属の芸人に対して「優越的地位」にあるかどうかは、吉本興業の市場での地位、所属芸能人の吉本への取引依存度(闇営業が禁止されれば勝手に営業できないので吉本興業への取引依存度は高まるでしょう。)、他の芸能事務所等に代わることのできる可能性、交渉力の差、吉本の芸人であることのブランド力などを総合的に考慮して判断されます。「優越的地位」にある吉本興業が、相手に対して不利益行為を行うときに、独禁法違反となる可能性があると判断されます。
また、吉本興業では通常、所属芸人と報酬、業務内容などの契約書を交わしていないようですが、契約書を交付していないこと自体が相手に対して不利益行為を行ったといえるかどうかの問題があります。
公取委は、一般的に、契約書を交付していないことは、買いたたき(低すぎる水準のギャラを一方的に押し付けるようなこと)や減額(決めた金額から不当に差し引いて支払うこと)といった不利益行為につながりやすいという点を問題であると考えているようです(事務総長会見での説明)。
なお、上記の「人材と競争政策報告書」では、下請法の適用可能性を指摘しております。(資本金額や役務提供委託に該当するか否かの問題がありますが、下請法では、取引先の下請事業者に対して発注する際には支払代金などを記載した書面を直ちに交付しなければならないとされています。)