論題:“Bid roundness under collusion in Japanese procurement auctions”
石井利江子 氏
(Review of Industrial Organization Volume 44, Issue 3, May 2014)
論文要旨
本研究では、過去に公共工事の入札談合が摘発された市場に着目し、入札参加者に対する立ち入り検査の前後のデータを比較することによって、入札談合が行われていると入札データにどのようなパターンが現れるかを分析した。入札談合が行われていた時期は、入札額、落札額ともに末尾にゼロの並ぶ切りの良い数字になる傾向があることが明らかになった。
談合の有無をデータから検証する方法は、入札額と費用の整合性を検証するものが主流であった(Porter and Zona(1997)など)。そのような分析では、工事費用に関わる様々な情報が必要となる。それに対し、本研究ではより少ない情報で談合の有無を判別することを試みた。
入札談合における入札額の調整方法は、以下が典型的である。まず、談合組織のメンバーのうち入札に参加する予定の者が事前に連絡を取りあい、誰がいくらで落札するかを決めておく。そして本番の入札では予定したとおりの落札結果になるよう、落札予定者以外は許容範囲の上限に近い金額を入札する。このような談合において、落札予定額は談合メンバー間で共有されるもっとも重要な情報である。
本研究では、上記のような方法で談合する談合組織がコミュニケーションの失敗を防ごうとする結果、談合では落札予定額として切りの良い数字が選ばれ、その結果、談合が起きているデータでは落札額が切りの良い数字になる傾向があるのではないかと考えた。
2005年、沖縄県の発注する公共工事の入札において152社が課徴金等の行政処分を受けるという大規模な談合が発覚した。本研究は、この市場で談合が活発に行われていた時期、公正取引委員会が入札者への立入調査を行った後の時期、翌年行われた入札制度改正及び独占禁止法の強化改正以降の時期、という3つの連続する期間について入札データを分析した。
公正取引委員会による談合摘発の前後のデータを比較したところ、談合が活発だった時期では、金額の末尾にゼロの並んだ切りの良い数字が入札額として選ばれやすいという傾向が見つかった。さらに、最も低い入札額は、他の入札額よりもさらに切りの良い数字になりやすい。本研究はいくつかの統計分析を行うことによって、このような傾向は談合と関連が深いことを確かめた。