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横田正俊記念賞 第2回 受賞論文 (土田 和博 氏)

論題:「アメリカ連邦反トラスト法と州政府の競争制限1~3ー研究序説ー」

土田 和博 氏
(法経論集第54・55号[1985年3月] 、第56・57号[1986年3月] 、第59号[1987年3月])

論文要旨

最高裁判所は、昭和59年2月24日、石油価格協定事件判決において「価格に関する事業者間の合意が形式的に独禁法に違反するようにみえる場合であっても、それが適法な行政指導に従い、これに協力して行われたものであるときは、その違法性が阻却されると解するのが相当である」という大いに論議をよんだ判示を行った。事業者間の一定の合意が「適法な行政指導」によって違法性が阻却されるとすれば、従来の学説、審決例とは異なった判断といわざるをえない。これに対して、近年のアメリカ反トラスト法の展開は興味ある対照を示している。アメリカでは、1979年以降、連邦最高裁は、州行為の法理(State action doctrine)の適用を基本的には制限してきており、州議会の法律、州最高裁の規則など州政府自体の行為が競争制限をもたらす場合には自動的に連邦反トラスト法の適用を除外するが、市、郡など地方団体の条例が反競争的な効果をもつ場合、あるいは州または地方団体の消極的な関与はあるものの、私人が競争制限行為の主体である場合には、次の要件を充足しない限り、反トラスト法が適用されるとしている。すなわち、地方団体については、当該競争制限が州の政策として明確に表明され、肯定的に表現されたものでなければならないこと、また私人についてはこれに加えて、その政策が州それ自体によって積極的に監視されねばならないことである。ただ、地方団体または私人の反トラスト法違反行為が認定されても、1984年地方団体反トラスト法によって、金銭賠償が免除されることがある。これは、殊に三倍賠償によって市民生活に不可欠な公共サービスの提供や規制措置の実施が阻害されないよう配慮するものであり、地方団体は、いかなる場合にも三倍および実額の賠償請求を受けず、また、地方団体の公務員は「職務上の権限において行う」行為について、私人は「地方団体または職務上の権限において行為する公務員によって指示された公的行為」について、それぞれ金銭賠償を免れる。ただし、以上いずれの者に対しても反競争的行為の差止めを請求することは依然として可能である。
 要するに、連邦最高裁は、連邦制の建前上、州政府の行為についてはこれを尊重しつつ、地方団体または私人の行為が反競争的な効果を有する場合には「競争制限政策の明確な表明」を要求する。すなわち、競争制限行為が州法または条例において明定され、あるいは少なくともそれを容認する議会の意図が認められる個別規定が存在しないかぎり、当該行為は反トラスト法の適用を受けることになる。この点からみれば、冒頭にみたわが国の最高裁判決は、極めて緩やかといわざるをえない。また、この場合、競争制限的な行政措置を行った地方団体またはその公務員に対しても反トラスト法の適用が行われうる。「事業者」と「者(preson)」という名宛人の相違があるとはいえ、わが国の競争制限的行政指導を行う行政官庁あるいはその公務員は、アメリカ法の目からみると極めて恵まれた地位にあるということになろう。
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