論題:「EC競争法に関する研究」
武田 邦宣 氏 (神戸市外国語大学講師)
(EC競争法における協調型ジョイントベンチャー規制(1)-(4)六甲台論集法学政治学篇43巻1号~3号、44巻1号 (平成8年7月~9年7月)、EC集中規則における規制基準の展開・(2完))神戸外大論叢 第50巻第1号[99.9]~第50巻第6号[99.11]
論文要旨
EC集中規則の施行から10年が経過しようとしている。長年の懸案事項であった売上高要件の引き下げが実現し,またEC裁判所による重要判例が現れるなど,ECにおける合併規制は一つの節目を迎えている。
本稿では,EC集中規則のこれまでの法運用を,以下の2つの論点を通して,包括的に検討することを試みた。第一に,どのように寡占市場の規制が行われているのかという論点,第二に,競争政策以外の共同体政策(競争政策と矛盾するとされる産業・社会政策)が,合併の違法性判断に影響を及ぼすことがあるのかという論点である。
まず寡占規制の論点であるが,委員会は「共同支配的地位」という概念を用いて,寡占規制に対して徐々に積極的態度を示してきた。学説の多くも,共同休市場から期待できる経済的利益を確保するためには積極的な合併規制が必要として,委員会実務を支持している。ただし委員会実務に対しては,その規制基準が必ずしも明確ではないとの指摘も存在する。
次に,産業・社会政策の考慮問題であるが,これまでのところ,これら考慮を明示に行った決定例は存在しない。しかし実際には,これら考慮が行われたと言われる決定例も存在する。確かに集中規則は,不可避的にそのような考慮を許容する法制度を採用しているようである。
学説の多くは,合併の違法性判断において競争政策を重視すべきとする点において意見を一致させるが,しかし最終的に委員会が産業・社会政策を考慮することはやむを得ないと考えている。その理由は,委員会がEC条約3条に掲げられた共同体政策を総合的に執行する行政機関だからである。むしろ学説は,そのような考慮を原理的に否定するのではなく,その考慮のあり方に議論を移しつつある。ヨーロッパカルテル庁の設立を含め様々な政策提案は,このような考えに基づくものである。
さて,以上のように本稿は,純粋に外国法研究に特化した論文である。しかし以下の2点について,発展性を持つと考えている。第一に,EC法研究の観点からは,行政権の法解釈と司法統制という論点が浮かび上がる。本稿の2つの論点は,委員会にどれ程の裁量的な法解釈を認めるべきかという問題点において共通点を有する。これまでのところEC裁判所は委員会実務を支持しているが,その限界を知ることは興味深い。
第二に,日本法への示唆という観点からは,合併規制の明確性という点について重要な意義を持つと考える。これまでのところ集中規則の法運用に対しては好意的評価が多いが,それは81条の法運用との相対的評価による点が大きい。現在,81条と集中規則との規制基準は徐々に収斂しつつあるが,そうすると今まで目立たなかった集中規則に対する批判も徐々に明らかになってこよう。このような問題点を見据えた比較法研究が重要ではなかろうか。以上の2点が,今後の課題である。