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宮澤健一記念賞 第7回 受賞論文(川合 慶 氏、中林 純 氏)

論題:“Detecting Large-Scale Collusion in Procurement Auctions”

川合 慶 氏
中林 純 氏
 (Journal of Political Economy Volume 130, Number 5 May 2022)

論文要旨

 日本の調達入札では予定価格が設定され、その予定価格を下回る金額が入札されるまで入札が繰り返し行われる。本研究はこの再入札に着目し、入札データから談合を探知する方法を提示した。国土交通省が2000年代中頃に発注した公共工事おける再入札を分析した結果、談合を繰り返した疑いがある業者は1000社にのぼり、またそれらの業者が落札した工事は、全体の15000件(サンプル全体の4割)にも及ぶことが分かった。
 入札談合では落札予定者があらかじめ決まっているので、初回入札と再入札において一番札を入札する者は同じになる。これは「1位不動」と呼ばれ、過去に新聞でも報道された現象である。しかしこの一位不動現象は談合がなくても、建設業者間にコストの差があれば生じうる。本研究が提案する談合探知の手法は、一位不動が談合によるものなのか競争によるものなのかを統計的に識別する方法である。
 本研究で分析した国土交通省発注のサンプルでは再入札が行われた入札は約8000件で、そのうち約97% が一位不動だった。入札が競争的ではそもそも生じえなそうな数字であるが、本研究は統計的にこれが談合によるものであることを識別するため、初回入札で1位と2位だった業者の再入札金額の差に着目した。その結果、初回2位業者は再入札において僅差で負けていることが多く、再入札でほんの少し低い価格を入札していれば1 位になっていた入札が数多くあることが分かった。例えば初回2位だった者が1% でも低い金額を入札していたら再入札案件の2割、2%ならば4割も落札できていた。再々入札(3回目の入札)では再入札より平均で5%以上入札金額を下げて入札していることから、業者の費用は十分低く、再入札において入札金額を数%下げれば多額の利益を得られるはずなのにそれをしないというのは、入札において談合が行われている証拠である。
 また初回2位業者が再入札で僅差で負ける状況自体も極めて不自然であった。入札金額決定のプロセスは複雑であることから、競争している状況の下では、競争相手の入札金額は自分にとって常に不確実である。したがって、初回1位業者に初回2 位業者が再入札で常に僅差で負けるということは不可能である。ところが実際には初回2 位業者は常に僅差で負ける一方、僅差で勝つ状況はほとんどないことが確認された。これをもとに、企業毎の再入札における行動を分析した結果、不自然な再入札をしていた企業が1000社以上いることが分かった。
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