本文へ移動

横田正俊記念賞 第39回 受賞論文 (柳 武史 氏)

論題:「EUにおける環境を巡る競争政策の動向」、「EU競争法と環境・サステナビリティ─オーストリア連邦競争庁、ギリシャ競争委員会及び欧州委員会の取組みを中心として─」及び「競争法におけるサステナビリティの問題について─ オランダ競争法の議論を手がかりとして─」等のSDGsに関する一連の研究業績

柳 武史 氏(一橋大学大学院法学研究科准教授)
「EUにおける環境を巡る競争政策の動向」(公正取引872号16-20頁、以下「論文A」という。)、「EU競争法と環境・サステナビリティ─オーストリア連邦競争庁、ギリシャ競争委員会及び欧州委員会の取組みを中心として─」(EU法研究13号15-37頁、以下「論文B」という。)及び「競争法におけるサステナビリティの問題について─オランダ競争法の議論を手がかりとして」(日本経済法学会年報43号101-12頁、以下「論文C」という。)等のSDGsに関する一連の研究業績

論文要旨

 近年、欧州を中心としてSDGs(持続可能な発展目標)と競争法の問題が活発に議論されるようになっている。SDGsの実現に向けて、政府の規制や課税のみならず、企業の共同行為(カルテル)などをも積極的に活用しようとする議論は、競争法との緊張関係(抵触)をもたらし得る。
 まず、論文Aでは、環境をめぐる欧州競争政策の最近の動向について検討を行っている。ここで、オランダ消費者・市場庁は、まだ草案の段階であるにもかかわらず、新しいガイドラインの第2案(後述)の「適用」を開始し、競争法に違反するものではないとの見解を公表している。しかし、論文Aは、これらのケースについて、競争法の既存の判断枠組みを用いることによって判断できたのではないかとの疑問が呈されていることを紹介する。そして、競争法の適用除外立法の制定などに関する立法事実が必ずしも明らかになっていない現状では、差し当たりは競争当局による一般的なガイダンスの提供や個別の相談対応が望まれることを主張する。
 次に、論文Bでは、オランダなどの提案に対して、EUの執行機関である欧州委員会がどのように対応したのかなどについて検討を行っている。欧州委員会は、2022年3月、水平的協力協定ガイドラインの改定案を公表し、そこでは「サステナビリティ協定」という新しい章(第9章)が設けられたものの、基本的には、消費者の不利益が利益によって埋め合わせられることを求める消費者厚生基準は堅持されていることを紹介する(注:2023年6月、成案を採択している。)。ただ、欧州委員会は、ガイドライン改定案における「実質的に重なり合う」、「一部」、「十分なほど重大」といった評価的な文言を通して、柔軟な解釈の余地を残しているようにも見え、今後の運用や評価の方法を注視する必要がある点も指摘する。
 最後に、論文Cでは、オランダの競争当局の「先進的」な取組などについて検討を行っている。すなわち、オランダ消費者・市場庁は、2021年1月、新しいガイドラインの第2案を公表し、消費者は完全に埋め合わせられなくても「公平」といい得るとした(注:2023年10月、これに代えて政策ルールを公表している。)。しかし、論文Cは、論者によってはむしろ厳格な競争政策の執行こそがSDGsの実現にも資するとの主張もなされており、冷静な経済的エビデンスに基づいた議論を深める必要があることを指摘する。そして、まずはガイドラインにより競争制限に該当しない場合の典型例やその考慮要素・条件等を明示して、可及的に事業者の萎縮をなくし、透明性・法的安定性を確保するように努めるべきであることを論じている。
TOPへ戻る